北摂三山寺と勧請掛(かんじょうがけ)

by 石坂 さん(高槻支部会員)
T.北摂三山寺《根本山神峰山寺、北山本山寺、南山安岡寺》について
高 槻市北部は北摂の山塊が続く国境地帯で、北西は丹波国、北東から東にかけては山城国で、この地方の最高峰 加茂勢山(通称 ポンポン山 678.9m)が 摂津国と他の二国との国境になっている。この山から南に延びる山脈は、西に芥川、東に水無瀬川、桧尾川の流れを生じ、平野部の水源地となっている。 従っ て、この国境地帯からのびる山脈や河川が弥生の昔から信仰の対象になってきた。即ち、畿内の七高山《近江では伊吹山、比良山、比叡山  山城では愛宕山   摂津では神峰山  大和では金峰山、葛城山》の一つとして名を連ねていることでも知られる。

これらの山々は古代より、各々の地方で聖なる山として厚い信仰の対象となっているが、大和の金峰山、葛城山は、修験道の開祖とさ れる《役の行者 小角》(えんの行者おづぬ)の修業の場であり霊験を感得 した聖地である。且つ、超自然的験力を示した道場でもあった。
この小角(おづぬ)が葛城山で修行中、北西に紫雲のたなびく山を見て霊験 を感じ、この北摂の山に来て堂宇を建て修験の道場として開山し、770年頃に開成 皇子が創建したのが神峰山寺の始まりであった。

この寺を根本山と号し、南に南山安岡寺(775年の創建で、小角が開祖としている)北に北山本山寺(770年頃の創建で、同じく 小角を開祖としている。別名 霊雲院ともいわれている。)が建立され、北摂における仏教の山岳修業道場が完成する。この三寺は一直線上に配置せれており、その延長線上には愛 宕山がある。方向としては、北から7度45分の右傾きになっている。又その距離に関していえば、南山〜神峰山寺の距離と、北山〜愛宕山の距 離は1:5である。これは北斗七星の柄杓の汲み口の距離と北極星までの距離の比と同じである。小角が 北極星を尊び、星座に精通していたと考えられ、これによって正確な距離と方位を割出すことが出来たからであろうと思われる。

  
安岡寺ー神峰 山寺ー本山寺が一直線上にあることを示す地図。又この先に愛宕山がある。 根本山神 峰山寺山門(仁王門) これが神峰山 寺を開山した役行者 小角(おづぬ)を祀る《開山堂》
  
根本山神 峰山寺 本堂 北山本山 寺 本堂 南山安岡 寺 本堂

また、小角は神峰山寺開山の8年前 (688年)山城国の愛宕山で精修を行っている。この山は火の神 迦倶土(本地、勝軍地蔵) を祀り、防火厄除を願う人々の信仰の厚い処であり、全国の愛宕山の総本山でもある。役の行者  小角は ここで火の清浄性と、疫災の焼除の効を見出し、呪術、除厄祀祷等に護摩を焚くこと、および火渡りの術を収得したのであろう。




U.勧請掛(かんじょうがけ)について
まず、勧請とは神仏の御来臨を請い、お祭りをすることを言うが、本来は誠の心をもって仏に説法を請 い、仏が永久にこの世の人々を救わんことを請願することであって、北摂三山の勧請掛は、この 本来の意味をもつものである。
先ず、阿闍梨が住していること、仏弟子の高僧から説法が聞かれること、又彼によって灌頂(かんじょう)を受け仏弟子となれること、その印としての勧請掛で あり、潔斎(けっさい)の意味を持っている。
  
根本山神 峰山寺の勧請掛 根本山神 峰山寺の勧請掛(拡大) 北山本山 寺の勧請掛
  
北山本山 寺の勧請掛表示 南山安岡 寺の勧請掛 南山安岡 寺の総門

新しい綱の製作は年末の12月25日(現在はそれに近い日曜日)に近隣の信者が材料を持ち寄って始 められる。

次に勧請掛の意味に ついて解説すると、勧請掛の綱は神社拝殿や正月の門飾りの七五三縄(シメ縄)と同じ三本撚りであって神仏混淆の跡が見える。また掛け物の数が12本である のは薬師如来の12神将を示している。又、竹冊と縄にて表される格子状の形はドーマンといって魔除け、厄除けである。更に、最下にある十字に重ねた樒(し きび)の束は、薬師如来の衆生の病苦を救い、無明の病疫を癒すという12の大誓願を示しています。

薬師如来の12大誓願  
光明照耀・随意成弁・施無尽物・足立大乗・具戒清浄・諸根具足
・除病安楽・転女成仏・足立正見・苦悩解脱・飽食安楽・美衣満足

このように、12種4文字は樒の4本の束で示している。また、樒は愛宕山の神の依代(よりしろ)で あり、防火防災に霊験がある。
しかし、勧請掛の意味は永年のうちに忘れられ、江戸時代になると、社会の情勢や農作物の良否、諸物価の高低などを12本の掛け物の長短によって、子神を一 月とし、亥神を十二月として、各々の月での良否、高低を占う指標とした。この効能によって参詣するものが多かった。
近年になると、米相場や株の動向を占い売買の参考とするため、相場師とか株屋の信仰が厚く、 勧請掛用の石柱を寄進するものもあり、科学万能の時代でも、まだまだ神仏にすがる庶民の心理が伺えるし、この行事が今も続いていることがうなずけるところ である。

尚、南山安岡寺には本堂の横に青梅観音堂があり十一面千手観音菩薩が祀られております。このご尊像 は平安時代の中頃につくられたもので、檜材一本造りで、坐像の千手観音像としては日本でも珍しい大像で国の 重要文化財に指定されております。
   
青梅観音 堂 十一面千 手観音菩薩坐像




《 完 》
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