"蛍"の里を芥川流域にめざして!

                      西 地区   松尾  昇 さん





       
   
    松尾 昇さん 自 宅の研究室にて
 



 松尾 昇さんは昭和29年(1954)に旧松下電器洗濯機事業部に入社、平成7年(1995)定年退職されるまでの40年間洗濯機事業部で生産技術などの部門を担当されました。

平 成9年に(株)クリスタへ入社し乙訓環境衛生組合汚水処理場に勤務後、平成13年に退社されましたが、在職中にふと、処理水に興味を持ち「汚水を処理した 処理水で蛍を飼育出来ないだろうか?」と思いつき、飼育実験を開始し、実験で得た知識の数々が、蛍の増殖に本格的に取組むキッカケになったそうです。

  



松尾 さんは、汚水処理場勤務中の平成11年〜12年に職場での休憩時間を利用してゲンジボタルの一生(産卵から成虫まで)の飼育実験を始められました。

実験 は処理水・池の水・地下水の3通りの水を使い蛍飼 育の実験に使う装置は、文献などを参考にして、水質に合わせて工夫し、製作、改造、給排水配管などは、すべて自分で製作して飼育を試みられました。処理 水を使った飼育では夏場水温が上がるため飼育がうまくいかず給気や冷却が必要になりました。池の水を使った飼育では、給排水口から幼虫が逃げ出してしまう 失敗も経験されました。

最終 的には年間安定した水温が得られる地下水での成功率が高いことを知ることが出来たそうです。
 
                                                  松 尾さんが自分で製作した実験装置 (汚水処理場にて)


 

 実 験で飼育の前期は、産卵〜孵化〜幼虫(6齢)で、 小容器に幼虫100匹を入れて3日毎に水替えと餌やり(カワニナの肉を取り出して、細かく刻んで与える。)を6ヶ月余り続け、その後幼虫を実験装置へ放流 し、飼育の後期に入ります、放流された幼虫は装置内で飼育されていたカワニナを自力で捕食して大きくなり、4月頃に土にもぐりサナギになり、5月の中旬頃 から羽化して成虫になります。この間(後期)6ヶ月余りを注意深く見守るそうです。

 



幼  虫 カ ワニナを食べる幼虫 





成  虫

  4月初め頃、幼虫が水中から土へ上がる階段部分で、頭を上に体半分ほどを空気中に晒す不思議な現象が10日間ほど現れました。初めて目にする光景に酸欠で はないかと心配になったそうです。幼虫は水中では“エラ呼吸”ですが、サナギからかえると空中では“肺呼吸”で酸素を取り入れます。






 心配した不思議な光景は“呼吸切り替え”の準備動作であったことを知りました。
家庭 でも、自宅の一室を蛍の飼育場にあて、文字どおり「蛍と寝食を共に」されています。蛍 は成虫になり、光を灯し乱舞する可愛い姿は夢を運んでくれますが、幼虫のときは水中で成長し黒い色で、体の両側には角のような突起が連なり、一見グロテス クな姿をしています。             

 あ る日、飼育器から這い出した幼虫が床を這い回り、それ以来、奥様と娘さんに総スカンを喰った失敗談を話してくれ、蛍の増殖には理解はあるものの、自宅で蛍 を飼うことには反対されて肩身が狭いと嘆い ておられました。                                         




自宅に置かれた装置




産 卵容器 



カ ワニナ飼育器







幼 虫保育容器 70 14,000

蛍 の一生の観察装置(池の中で使用)


     
           蛍 の小川




念願 だった自然環境での蛍の増殖を試みる準備活動を平成13年から始められました。その背景には、近年、近隣で蛍の乱舞を見たいという願いが高まり、蛍の季節 には多くの人々が蛍を追い求める姿がありました。

蛍 を里に復活させるために、増殖も行われていますが、自然が舞台の中でその生息環境は限られており、困難をきたしているのが現状です。調査と蛍増殖の場所 を、芥川緑地公園の“ほたるの小川”を中心とした摂津峡下の口から“あくあぴあ芥川”一帯を選び、蛍の増殖を試み、蛍の発生状況の調査を続けてこられまし た。



 



蛍の増殖の試みとして、“ほたるの小川”を蛍発生
の拠 点にするため、小川の整備、水量管理、カワニナの放 流と増殖、川辺の除草、など地道な取り組みが平成 18年3月から継続的に実施されています。

“蛍 の小川”でのカワニナの増殖には公園内行為許可書が必要であり、平成18年に申請されました。  こ の間、平成14年に蛍発生の拠点“蛍の小川”の水路が工事によって流れが途絶えたため、生息していた蛍の幼虫やカワニナが全滅に等しい打撃を受け、地道な 活動を踏みにじられるような事態にも遭遇されました。この時は“ほたるの小川“の水路を仮設し、工事現場で捕捉した幼虫を保護したそうです。

        






  民間ボランティア活動に対する理解が乏しい河川工事局や行政のあり方、この護岸工事の名の下に行われる蛍の生態系破壊が、一番悲しい出来事だったと振 り返
って おられました。                         

平成 19年には、芥川の西之川原橋上流再生水路の整備・水量管理、カワニナの放流と増殖、川辺の除草など新たな「蛍にやさしい環境づくり」を目指す取組みも展 開されたそうです。                    







水 路の整備作業

蛍 を守る会のメンバー(松尾さん 右端)



 蛍 増殖の研究にあたっては、茨木市の西河原公園で蛍の幼虫飼育の指導を受け、大場信義先生の著書「ホタルの飼い方と観察」で蛍の生態・生息環境・飼育の仕 方・装置について、遊磨正秀先生・生田和正先生の著書「ホタルとサケ」で自然環境との関わりについて夫々勉強されました。また、滋賀県守山市の蛍保護条 例、たかつき環境市民会議、また水環境保全グループにおける蛍の研修会での講師のお話や、メンバー相互の情報交換などを参考にしながら、まさに試行錯誤の 連続だったそうです。                                       
 一 方、蛍の発生状況調査活動では、平成15年から20年までの6年間、摂津峡下の口〜あくあぴあ

芥川 周辺を8区分した区域、上の口、原、樫田(しょうぶ園)、二料地区にわたり、蛍の発生から、消滅

まで と、併せて幼虫の餌になるカワニナの生息地を調査し、総合的なデータ収集をかさねられました。 

こ こ芥川で生息する蛍は芥川の環境に適合しており、他の地域から移入する行為は厳に慎み、その環境が実体験出来る教育的な場所・空間づくりの必要性に駆られ て、平成19年3月「蛍を守る会」を結成し、“蛍を守ることは、生態系を守ること”の信念のもとに代表を務めておられます。                           





発 生状況の調査




芥川 周辺の蛍の発生状況調査結果のあらましをまとめていただきました。

○平 成14年1月に蛍の生態系を解明できた。

○平 成15年“ほたるの小川”の導水路にあたる
 用 水路工事により、幼虫の生息場所が減少し、
 16年の蛍発生は工事前の40%に減少した。

○平 成16年9月の台風時の大水で、生息場所に砂利堆積して、幼虫の生息環境が悪化し、17年の蛍
 発生は工事前の13%に減少した。
  

○平 成18年も上記の影響が残り、蛍発生は23% に
 とどまった。
                  

○平 成19年“蛍を守る会だより”を発行

○平 成21年は地道な活動の成果により、“ほたるの  小川“芥川 の西之川原橋上流再生水路の整備により、蛍の発生数は89%に回復した。   
          


  ●6月ゲン ジホタル観察会を開 催      

 ● 場所:摂津峡下の口〜あくあぴあ芥川周辺    





  蛍 の発生推移グラフ





蛍の減少は少しの環境破壊によっても短期間に進んでしまいます。今や蛍の生息は壊滅の危機に直面していると言っても過言ではありません。この危機を打開す るために、先ずは蛍の生態系を再生させ、

“ほ たるの小川”に幼虫を放流して蛍の発生を促すために、賛同者を増やす努力をされているそうです。

「蛍 の生態系を甦らせ、蛍の乱舞する回廊にしたい。この自然の空間で幼児から高齢者までが、身近で・安全で・くつろいで、蛍の観賞が出来る自然環境をつくり、 童謡・唱歌に唄われた“蛍”で、子供たちには夢を、高齢者には郷愁で心を癒してもらえる。こんな“蛍の里”を芥川流域に実現しましょう!」

これ が、地域に住む人々に呼びかけたいことです。と力強く語っておられました。


  モットーは、  夢 芥川 清水ホタル回廊実現をめざして

          夢はあきらめなければ、必ず実現する。


いま まで嬉しかったことは、蛍の発生数が増えてきて、観察に集まった人たちが歓声を挙げて喜んでいる姿を見たとき、苦労が報われたという気持になり目頭を押さ えたそうです。

お仕 事は、と聞いてみると、即座に蛍の飼育(ボランティア)、自称“蛍の研究家”と言って笑っておら れました。その顔には、“けなげに光を放つ蛍”を愛し、自然を愛する気持が溢れ輝いていました。まさに、“輝く人”です。






蛍 の生態系について話をされる松尾さん



芥 川緑地公園


   
  蛍は自然が豊かで、良く保たれた自然環境からの、生きた使者です。

蛍をなぜ守る? それは自 然を守ることだから!

           あなたも“蛍の乱舞”の実現に参加しませんか。 

蛍 を守る会 代表 松尾 昇  (津之江町)




                             
                            取材 : 信開 正二、佐古 年夫

                            文責 : 佐古 年夫
                            写真 : 松尾 昇氏 提供  




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