「1万人の第九」に魅せられて |
2014年4月
竜王町在住 山本 茂さん
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道楽という言葉が好きである。単に趣味と表現するより、言葉に何かハマり方が尋常でなく時には道を外して |
しまいそうな危うさが見え隠れするのがよい。 出来栄えの良しあしはともかく、人とは違った視点で趣味を深め、 |
一人ほくそ笑む…そんな道楽…。 その中で今、はまっている“音道楽”の中からひとつ 「1万人で第九を歌う」 |
を紹介する。
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◆ 「1万人の第九」との出会い |
今から14年前(2000年)の秋、職場の先輩が会社の
所感で、あのベートーベンの第九「合唱」を歌っている
ことを知った。
クラシックの合唱経験がなさそうな先輩が難解なあの
交響曲を歌うとは!驚きとともに、それなら自分にも
歌えるのではないかと勘違いをしたのが事の始まり。
翌年、詳細を調べるとサントリー提供・毎日放送主催、
年末に放映されている恒例行事で、合唱は1万人で
歌 うという。
指揮者が海外でも活躍中の佐渡裕氏、尊敬する音楽家
の一人であった。早速、応募したのは言うまでもない。
(参加者は抽選で例年1万人に対し、 1万数千人応募)
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「1万人の第九」の会場となる大阪城ホール
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◆暑さから寒さに変わるまで ~ きつい練習 |
参加したクラスはテナーパートの初心者クラスで(約500人)、練習会場は梅田の体育館。暑い8月から開始 して |
1回2時間、計12回の厳しい練習である。担当の歌唱指導の先生は、大学で骨格発声法による歌唱指導が専門とか。 |
それだけに合唱前には運動部のトレーニングさながらの柔軟体操・発声練習が続く。 |
その後パート別、全体歌唱指導、ドイツ語の発音指導、歌詞の意味や第九を書いたベートーベンの願いの学習もあり、 |
覚えることの多さに驚く。難しいドイツ語の発音や複雑な音程、考えられないほど高い音域に悩まされながら本番に |
向けて暗譜する(楽譜はすべて覚えなければ ならない)頃には、寒い11月も末となる。 |
第12回目の参加
2012年のプログラムに掲載される
(右:先輩 左:筆者)
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書き込み満載の楽譜
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◆佐渡監督の特別レッスン |
暑さ寒さの3カ月練習が終わると、指揮者の佐渡裕総監督の特別レッスンがある。初めて、“生佐渡”と対面。 |
思った以上に背の高いごっつい人である。1万人の出演者の多くはアマチュアであり 声楽家ではないが、 |
佐渡監督はレベルを落とさずプロと同じ要求をどんどん出しつつ厳しい指導をされていく。10分もすると本人の顔 |
から大きな汗の粒が!汗っかきの情熱家である。また男性合唱部で溌剌と歌うべき場面では、演台から降りて |
一緒に肩を抱き合いながら歌いあう。頭でなく体全体を使って理解させる。 |
彼は指揮者として国内外でタクトを振るばかりでなく兵庫県立芸術文化センターの芸術監督を務めつつ青少年の |
音楽指導にも熱心。テレビ番組に出演しながらこの公演の千人規模の特別レッスンを4、5回もこなすという。タフな |
人でもある。
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◆初めて一万人で「第九」を歌う! |
本番会場の大阪城ホールに開演6時間前の9時に
集合する。ここでは観客として聴くことはあっても,、
歌い手として歌うのは初めて。
出演者1万人が入ると、全館の約8割が合唱団で
埋まるという何ともいえない雰囲気が広い会場に
漂っている。
進行は席詰め・会場整理、発声練習へと進む。ゲスト
歌手とのゲネプロ(通し稽古)が終わる頃には観客の
皆さんが入場してくる。
合唱団は正装し(男性:黒スーツに蝶ネクタイ、女性:
白ブラウスに黒スカート) 待機。
ドキドキ感が一気に増す。
演目の第一部はゲスト歌手による華やかなステージ。
合唱団はバックコーラスで共に歌いながらリラックス
して楽しむ。
休憩の後、第二部はいよいよ交響曲第九番の演奏。
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リハーサル:2013年12月大阪城ホールにて |
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オーケストラにとっては、この曲はかなり難しい楽曲らしい。 ヴァイオリンはひっきりなしに弓を引いている。 |
必死の形相。 ただ合唱団には、第一楽章から出番の第4楽章途中まで結構長い待ちがある。 |
特に第三楽章は、天国のイメージなので緩やかに優しく、美しい旋律が続くので |
緊張感の中、ウトウトと眠ってしまう人もいる。本番中なのに不謹慎とは思うが、それほどに心地よいひととき… |
と、その時!♪ドドドドドドドッドォー♪~ ティンパ二のローリングを合図に合唱団は一斉に立つ。 |
出番である。一万人にライトがあたる。手に汗がにじむ。バリトン歌手がソロを力強く主題を朗々と歌う中、 |
いよいよここで初めて声を出す。 |
“フロイデ!Freudig!これまで3か月間練習してきたドイツ語の歌詞を思い出しつつ、合唱団が声を張り上げる。 |
抑揚も強弱もどこへやら、只ただ必死で歌う、叫ぶ。叫ぶ。 指揮者が懸命にタクトを振る。オーケストラが応える。 |
合唱団が一万人でさらに歌い上げる! |
合唱団とオーケストラが怒涛のごとく混然一体となり、あっという間のフィナーレ。達成感と連帯感と疲労感、 |
複雑な感情の高ぶりで一同興奮状態。そして互いの長い拍手の中で、公演は終了する…。
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こうして汗を流し歌って13年間、私は一昨年の抽選漏れを除き通算12回の合唱を続けてきた。 |
最近では楽譜を見ることなくスラスラと歌え、歌詞もドイツ語っぽい発音が板に付いた。 |
抑揚も強弱も体が覚えて佐渡監督の「思い」の表現も少しは理解できている。一方、合唱団全体も歌唱指導の |
先生方の細かい指導のおかげでレベルアップし音楽性も高まってきたように思う。 |
これまで大阪城ホールのスタンド最上部の歌手からは、アリーナの舞台に立つ指揮者のタクトがほとんど |
見えないため、合唱団には指揮者の意思が十分伝わらなかった。しかし数年前から合唱が指揮者のタクトに |
合ってきた!これは奇跡である。合唱は数百人規模になるとコーラスはなかなか合わせにくい。 |
数千人ではなおさらだ。ましてや一万人では至難の技。これはかなりのGood Job!なのである。 |
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◆佐渡監督とベートーベンの想い |
2013年12月1日。「サントリー1万人の第9番(合唱付)」の第31回公演が開かれた。 |
前年、区切りとなる30周年を終え、今回より3つの変更で新たな進化が始まった。
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① 司会者が小倉智昭氏からフリーになった羽鳥慎一氏に交代(フレッシュ感の演出)
② 初回よりずっと変えなかった会場レイアウトの変更(音響効果向上の実現)
③ 作曲家の意図を理解するため原文シラーの詩の朗読(開催趣旨の原点回帰)
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この曲がつくられたのは18世紀。西欧では革命の嵐まっただ中である。ベートーベンは生涯最後の集大成として |
「すべての人々が兄弟のように手を取り合える世の中に」とする想いをもってこの「第九」を作曲した。 |
だが、この願いは科学技術が進歩し豊かになった現代になっても達成されていない。むしろ世界は深刻な規模の |
飢餓、テロ、内戦等悪い方向に進んでいる。だからこそ佐渡監督は強く発信したかったのである。 |
“アーレ メンシェン ヴェルデン ブリューデル”(全世界の人々が兄弟になる)… 曲の中で何度も歌われる |
この想いを「一万人の第九」を通して万人に広めていくことを…。 |
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この想いが参加者にどれだけ伝わっているかわからない。だが年を経る毎に、合唱団は曲にかける真剣さが |
強くなっている。フィナーレの感激が大きくなっている。主催者やスタッフの力の入れ方がさらに違ってきた。 |
こうして心ひとつにブラッシュアップされた「一万人の第九」は一段と高い音楽へと変貌していくであろう。 |
いや合唱団の一人としてそうしなければという思いがさらに強くなった。 |
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◆この舞台のフィナーレは次の舞台のプロローグ |
さあ、練習に行くぞ!~
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会場を去る間際、隣の男性が笑顔で声をかけてくれた。
「来年、また会いましょう!」あちこちで見ず知らずの参加者
同士、同様に誓いあっている。
参加者の年齢は8歳から90歳とか。その多くは中高年から
後期高齢者である。この人たち全員が次回の公演に参加でき
るかどうか保証はない。だから「また楽しく練習に励み、この
大阪城ホールで歌いたい、旧交を温めたい」と思う、その気持
ちは強い。その日まで健康に留意し元気に暮らして行こう、
皆さんそう思っているようだ。高齢者には生きる目標となって
いるのではなかろうか。
少なくとも下腹が出て、三大成人病をしっかりと保持している
自分自身には健康維持のため、ひとつの大きな目標となって
いることは間違いない。
合掌♪ |
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◆13年の歩み |
参加した12回分のプログラム
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同じく12回分のCDとDVD
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第1回目の参加
「1万人の第九」2001年のプログラムより
(まだまだ多い頭髪?)
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第11回目の参加
「1万人の第九」2012年のプログラムより
(やっぱり結構薄くなった髪)
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