カヤックで琵琶湖一周(6日間)の旅
 


2012年6月

大津市在住

門脇 宣孝
 
 
◆2000年に60歳で定年退職後、カヤック(カヌーの一種でデッキに浸水防止の覆いがあるもの)を習い始め、1年後
  に琵琶湖周航を企て、8日間かけて一周したことがある。琵琶湖はカヤック愛好者にとって比較的安全で湖周の利
  便性も良く、しかも自然は豊かで極めて魅力的な環境である。

◆是非とももう一度回ってみたいと思い、6泊すべて浜で野営することとし、7月4日から7日間の計画で大津市南郷港
  を出発した。結果的には1日短縮しての6日間で琵琶湖を一周する事ができた。
 
カヤック: サスケ(ウォーターフィールド社製) 全長460cm 重量15.5kg
装備類 : 2分割式パドル ライフジャケット スプレーカバー ビルジポンプ パドルフロート クッション 水取り用スポンジ マップケースと地図 舳先に結ぶカラビナ付きロープ 
衣類等 : 帽子 長袖シャツ1枚 Tシャツ3枚 軍手 水泳パンツ3枚 アクアソック タオル 短パン 下着 ビーチサンダル 傘
野営用 : テント 簡易タープ ブルーシート ペグ ハンマー ロープ 空気マット 寝袋 雑巾 係留用杭
調理用 : 鍋類 食器 コップ しゃもじ 箸 スプーン 固形燃料 ガスコンロ ボンベ サランラップ 紙まな板 キッチンペーパー
食料品 : お茶とポカリスエット各1本 米5合 水2リットル3本 レトルトカレー 即席麻婆茄子 パン2個 ラーメン5個 魚缶詰4個 インスタント味噌汁10袋 スープの素5袋 カロリーメイト2箱 ビスケット4箱 プルーン1袋 氷1袋 ビール2缶 ミックスナッツ3袋 茶葉 海苔 塩
その他 : 携帯電話 デジカメ 三脚 洗面具 薬 日焼け止め バンドエイド ツールナイフ 電気蚊取り 扇子 ライター 防水袋大(主として衣類用) 防水袋小(主として食料用) ビニール袋大数枚(その他色々の水濡れ防止用) 発泡スチロール箱(氷とビールの保冷用) 折り畳みバケツ 洗濯バサミ ラジオ ヘッドランプ ガムテープ 携帯とデジカメの充電器

1日目(7月4日月曜日)曇り
   荷物をすべてカヤックに詰め込んだ(総重量約40㎏)。カヤックカートに乗せ、家から南郷港まで約500mを押して運ぶ。妻が見送りとカートの回収のために車で出発点まで来てくれた。予定よりかなり遅くなったが、いよいよ出発(10:10)。 

 瀬田川を遡り、琵琶湖に入る。午後になって少し風が吹きだした。西からの風で余り強くはないが、波の方角が悪いため漕ぎにくく、かなり左腕に負担がかかる。日野川河口で休憩して携帯のナビで目的地を確かめようとしたが、操作が判らなくて失敗。結局地図と地形を頼りに目的地を探す。ようやく牧水泳場らしき所に到着(18:05)。

 キャンプ場ではないが今夜はここに決める。これ以上進む元気はない。テント設営後、夕陽を見ながら先ずはビール。夕食はおにぎりの残り2個と魚の缶詰。夜間には少し雨が降って来て、朝まで降ったり止んだり。テントの周囲は真っ暗である。
 

【南郷港からの船出】
2日目(7月5日月曜日)晴れ
   起床(04:50)。天気がよくなったので先ず洗濯をして干し、ラーメンで朝食。出発。(08:00)
 昨日と打って変って穏やかで鏡のような水面である。これが午後には一変するから恐ろしい。

 宮ヶ浜に上陸して休憩。友人からの電話で目的地宇賀野まで伴漕してくれるそうである。今日は孤独と無言の苦行から解放されるのでありがたい。宮ヶ浜で彼の到着を待ち、一緒に出発(10:00)。
 伊崎不動を通過して彦根市新海(しんがい)浜に上陸し、昼食休憩。
 
     
    【牧水泳場の朝日】                  【湖上から眺める伊崎不動】  
  
   友人からの差し入れおにぎりなどを頂きながら、お互いに近況など話し合う。出発してしばらくすると西風が強くなり、うねりが大きくなってきたので、休憩というより避難目的で波が小さい入江を見つけて上陸。
   風と波はますます強くなってきた。再出発を試みたが、100mも進まないうちに2艇とも浜に寄せる横波を受け浜に押し戻されてしまった。何もない荒れた浜である。 友人が周囲を探索してほんの200mほど北に整備された公園があるのを見つけて来た。地図で調べて彦根市八坂(はっさか)町であることが判った。これ以上進むのは無理と判断しここを野営地と決めた。

 別の友人が、慰問に来て栄養ドリンクやポカリスエット大瓶など飲み物を沢山、提供してくれた。
 テントを設営して、洗濯をすると風が強いので寝るまでに乾いていた。予定通り進まなくて残念だったが、よく頑張ったのでビールは特別うまい。2缶空けた。夕飯はラーメンと魚の缶詰。
 

【荒波の八坂浜(彦根市)】
  
3日目(7月6日水曜日)晴れのち曇り夜風雨強い
   起床(04:30)。無洗米1合でご飯を炊いた。半分食べて残りはおにぎりにした。
 出発(06:30)。やはり朝は凪いでいる。昨日の遅れを取り戻すために早く出発し、穏やかな午前中にできるだけ距離を稼ぐことにする。
 空全体がもやっていて彦根城も湖上からは影絵のようにしか見えない。長浜豊公園近くの浜に上陸。
 
 
【湖上から観る長浜城歴史博物館】
 

 【借りたカヤックで遊ぶ若者】
 
   朝から3人の若者が浜で遊んでいた。漕いでみたいと言うのでちょっとの間、貸してあげた。今日は塩津まで行く予定だと言うと驚いて見送ってくれた。姉川河口に上陸し、休憩。
 ここから、湖北町の琵琶湖水鳥・湿地センター近辺までの岸辺は琵琶湖の中でも最も美しい風景の一つに挙げても良いと思っている。
 
 
【琵琶湖水鳥・湿地センター付近の風景】

 

【奥琵琶湖の風景】


 
   鳥は非常に多い。特に川鵜が多く少し飛び立っては水面を泳ぎ潜って魚を獲っている(らしい)。そのほかには白鷺、青鷺、鴨、かいつぶり、トビなどが目立つ。
 
 尾上(おのえ)漁港の傍の浜に上陸して、おにぎりと即席味噌汁で昼食。片山トンネルを過ぎるといよいよ奥琵琶湖となり、さざなみ街道から別れ車の騒音のない世界に入る。静かな湖面を一人占めしてひたすら北に向かって漕ぎ進む。藤ヶ崎を回り込んで、遠くに琵琶湖最北端の塩津が見えるようになった頃から南風が強くなってきた。ついには波に押されて打ち上げられるような態勢で塩津港の横の砂浜に上陸した。

 国道8号線沿いの「水の駅あぢかまの里」のパン屋さんで携帯電話の充電を依頼し浜の上の公園に戻りテントを設営。17時に店を閉めるそうなので直前に携帯電話を取りに行き三色食パンを1斤買った。公園の東屋でナッツをつまみにビール1缶を飲み、夕食は先程のパンの半分と2袋分のスープとプルーン少し。
 夜半からは強い雨も加わり、一晩中、テントは風であおられ騒々しく余りよく眠れなかった。
 
 4日目(7月7日木曜日) 雨 南風強い
   起床(05:20)。水の駅でトイレをすませ、コンビニでビールと氷を買ってくる。溶けた氷は空いたペットボトルに移し調理用にする。相変わらず雨が強いのでお湯を沸かしたりするのに屋根のある東屋は重宝である。
 朝食は昨日のパンの残りと即席みそ汁。風も強く肌寒いので長袖の上にTシャツを重ね着した。

 塩津港を出発(07:00)。

 向かい風でコントロールはしやすいが進む速度は遅い。
 葛籠尾崎の先端から、間近に(約2km)竹生島が見える。
 時間には余裕があるし荒れているが何とかなると判断して、8の字に竹生島を周回することにした。
 しかし、岸を離れると遠くで見えていた感じより波はかなり大きい。波に押し戻されながら進むのでなかなか島に近づかない。ようやく島の左(西側)から、桟橋等がある南側に回ると、初めて見る三角波に囲まれてしまった。高さは50cm~1m程度で大したことはないが、動きが速くでたらめで予測がつかないので油断がならない。
 まさに翻弄されるとはこのことの様である。高々10分程度だが極度の緊張が非常に長く感じられた。 
 
 
【北側から観る竹生島】


 

【湖上から微かに観える竹生島】

 
   波の穏やかな北側に回り込んで、やっとパドルを手から放す事ができ小休止し、今度は大きな波に押されながら短時間で葛籠尾崎南端に戻った。
 上陸できそうな最初の浜に上がって、ゆっくり休憩をする。あーしんどかった! 船内の水抜きをして出発。
 入り組んだ湖岸に沿いながら北上する。大浦付近で昼食する場所を探したが、波があるため石積みの湖岸には上陸は無理である。海津大崎までの中間付近まで南下して、昼食休憩にする。
 雨の中で調理は、しにくいので、簡単にカロリーメイトとプルーンだけにした。遠くに葛籠尾崎と竹生島が、かすんで見える。 つづけて南下し、海津大崎を回ってショートカットで今日の目的地高島市マキノサニービーチに到着した。(15:00)。
 キャンプサイトを申し込むと管理人さんは、「こんなひどい雨の中でテントを設営するのは気の毒だから、…」と、屋根付き場所を提供してくれた。これは本当に助かった。4日目にして初めて熱いシャワーを使い、気分は爽快、今夜はゆっくり寝られる。
 携帯の充電もカメラの電池の充電も自由にどうぞ、ということで満充電させてもらった。ビールの大缶を空け、ラーメンとパンで夕食。
 
5日目 (7月8日金曜日) 晴れ
   起床(04:30)。すっかり雨は上がっている。マキノ駅近くのコンビニで氷、ビール、ポカリ2瓶を買ってきた。ご飯を炊いてレトルトカレーとスープで朝食。ご飯の残りでおにぎりを作り保冷箱に入れておく。
 マキノサニービーチを出発(07:25)。
 湖面は極めて穏やかで順調に進むことができる。石田川河口で休憩。
  
 
【マキノサニービーチで朝食】 

  

【湖上から観る新旭風車村】


  
   高島市の湖岸の民家や岸壁の独特の造りなどを見ながら漕ぎ進む。昨日とちがって今日は天気が良いので、時々カメラを取り出し撮影する。
 水鳥観察センターもあり奥琵琶湖と同じように鳥たちが多くなり、姿は見えないが「ギジギジ…」というヨシキリの鳴き声が盛んに聞こえる。この辺も自然の美しい風景が続いている。

 新旭の公園で休憩。昨日、大津から自転車で来て、1人でキャンプしている青年に出会った。彼によると驚いた事に自転車では1日で一周する人もいるそうである。

 安曇川の河口には北流と南流があり、両方を通過するには20分かかった。河口のすぐ近くの大木の茂みの奥にある小さな浜に上陸し、おにぎりに即席みそ汁で昼食にする。涼しくてゆっくり休憩できた。

 さらに1時間ほど南下し、今日の宿泊予定地である萩の浜に上陸したが、時刻が早すぎる。
 もう少し南にある白ひげ浜水泳キャンプ場に電話をすると、サイトは空いているそうなので予約した。
 
 キャンプ場の利用客はなく、どこでも好きなだけ使ったらよい、と言われてできるだけ道路から離れた場所を選んだ。キャンプ場はよく整備されているが、161号線沿いなので夜中の車の騒音が問題なのである。
 ここでも温水シャワーを使い石鹼も使って全身を丁寧に洗った。手持ちの1本のビールを飲んで物足りなかったので、管理人室に行くと冷えたのを売ってくれた。計画より少し進んだので日程を1日短縮して、6日目に一気に南郷まで帰れる可能性が出てきた。そのために、翌朝はできるだけ早く出発する事にして早く寝る。
 
 6日目 (7月9日土曜日) 晴れ
   起床。(04:15) 天気はよさそうで穏やかな湖面である。
 今日中の帰着を目指して、早めに出発する(06:07)。白鬚神社の鳥居の前でこれまでの無事に感謝し、手を合わせ、柏手を打った。
 大津市南小松 近江舞子中浜に上陸。さすがに琵琶湖随一の水泳場だけあって広く砂もきれいである。
 カヤックの中では脚は余り動かさないので休憩中はできるだけ歩き回ることにしているが、ここでも適当に散歩する。
 南浜では水上バイクが続々と集まって来ていたが、まだ準備中で乗っているのは1艇のみ。早朝に、ここを通過したのは正解である。

 琵琶湖大橋の下を通過し、いよいよ南湖に入る。柳ヶ崎で昼食休憩の後、沖へ出ると遠くに大津の町並みが見えてきた。大津プリンスホテルの高いビルを目標にして直進する。由美浜で最後の休憩時、18時過ぎに南郷港に着く予定を妻にメールで知らせる。 瀬田の唐橋の下を通過し、南郷港に到着(18:20)。妻がカヤックカートを持って迎えに来てくれていた。計画を1日短縮したため、今夜はテントを設営しなくても寝る事ができるのが嬉しい。
 
   ほぼ同じコースであったが、10年前の8日間と今回の6日間を比べると、船の性能によるところが最も効いていると思う。

 前の船は、幅の広い布張りの「ボイジャー415」であったので抵抗が大きくスピードが出なかったからである。

 それを差し引いてもこの結果は、10年前と体力があまり衰えていない事の証明になり、満足している。
 
【浮御堂をバックに】