我が故郷の偉人〜伊能忠敬〜
 


〜はじめに〜

 今回、伊能忠敬について紹介することを思い立ったのは、私の実家がある千葉県に帰省した時に地元の人との何気ない会話の中から、伊能忠敬の話題が自然に出てきた事でした。
 ご存知の通り伊能忠敬は、今から200年前の江戸時代中期に、日本地図を完成させた偉人ですが、地元ではむしろ日本地図製作の偉業よりも地域への多大な貢献に対して感謝と畏敬の念を持っていました。
 伊能忠敬が半生を過ごした佐原市と、忠敬の功績を集大成した「伊能忠敬記念館」について地元の目線でご紹介したいと思います。


伊能忠敬(像)
◆佐原市の風景と伊能家(旧宅)

(1)佐原市の風景(利根川と小野川)

 伊能忠敬は利根川の支流にある小野川の近くに居を構え、17歳から49歳までの半生を送っています。
 この当時の利根川は、頻繁に氾濫を起こし、民衆の生活を苦しめていましたがその一方で船が物資輸送の主要手段となり、
特に江戸への輸送ルートが確立されると佐原村も急速に経済発展が進みました。
 これにより、利根川の支流にある小野川には、船宿や問屋が多く集まり、盛況になったと言われています。
 当時、荷卸し等に使われていた河川階段が今でも小野川に残っており、江戸時代の風情を醸し出しています。


利根川
      


小野川
 

小野川(観光舟)
 

(2)伊能家の家業と旧宅

 伊能家の家業は川船運送や酒造業、米の売買等を手掛けており、佐原でも指折りの資産家に発展して行きました。
 今でも伊能家の旧宅にその面影が残されています。


伊能家(旧宅)


伊能家(門)


小野川から伊能家を望む

 
◆忠敬の地域貢献活動

(1)飢餓救済に尽力

 江戸時代中期には利根川の度重なる洪水や浅間山(群馬県)の大噴火が重なり、関東一円は飢餓に見舞われていました。
 この危機に対して忠敬は、関西から米を取り寄せて村民に与えると共に、近隣の村々にも安く分け与えたと言われています。
 更に、利根川の堤防修復工事では、永久相続金と名づけた非常用積立金制度を作ると共に、家業で得た私財を投じて
継続的な利根川の修復工事に取り組んでいます。

(2)名主に抜擢

 利根川の洪水対策や浅間山の降灰による窮民の救済、また村政への尽力により、36歳の若さで佐原村の名主に抜擢され、
同時に名字帯刀を許されています。

 
◆伊能忠敬記念館

 伊能忠敬は50歳を過ぎてから、日本全国を測量して歩き、わが国最初の日本地図を作り上げました。
 伊能忠敬記念館では、測量に使用された各種計測器具やその業績を数多く展示しています。

(1)伊能忠敬記念館の展示物

  @像現儀(小)・・・三角関数を利用して山や坂の角度を測定する器具
  A像現儀(大)・・・緯度を計測し、天体観測から地球上の位置を算出
  B半円方位盤・・・山や坂道などを観測する器具。測定誤差補正用として活用


@象眼儀(小)


A 象眼儀(大)
 


B半円方位盤
 

  C導線法・・・海岸沿線など曲った地形などを計測
  D子午線の計算・・・子午線1度の弧長(緯度1度)を求め、地球の大きさや形状を計算
  E天体観測…子午線の計算から緯度を求め、日食の時間を計算


C交会法(鎖)


D子午線1度の計算

E天体観測(日食の軌跡)

(2)滋賀県(琵琶湖)の地図

 忠敬は、第5次測量(1805年〜1806年)で近畿・中国地方の測量を行っています。(忠敬の当時年齢:60〜61歳)
 滋賀県(琵琶湖)の地図を比較していますが、現在の地図と全く遜色がなく、測量精度の高さが伺えます。


<琵琶湖の地図比較>
忠敬の測量(左)/現在の地図(右)


関西への測量ルート

(3)伊能家の家訓(1791年、寛政3年)

    忠敬は、長男の景敬(かげたか)に宛てて家訓を残しています。
    (第一) 仮にも偽をせず、孝悌忠信にして正直なるべし
    (第二) 身の上の人ハ勿論、身下の人にても教訓意見あらば急度相用堅く守べし
    (第三) 篤敬謙譲にて言語進退を寛裕ニ諸事謙り敬ミ、少も人と争論など成べからず

    この家訓は現在の世の中でも生かすべき、貴重な指針が多く含まれていると思います。

〜おわりに〜

 忠敬は家業や村政に励むかたわら、50歳から本格的に天文学の勉学に励み、55歳から北海道の測量を皮切りに、以降17年間にわたり、全国測量を行っています。
 実測による日本地図の製作は、世界的にも十分評価されるものですが、それ以上に情熱とロマンを持ち続け、生涯現役で生き抜いた人生に学ぶ事が多くありました。

<佐原市、伊能忠敬記念館へのアクセス>

(佐原市へのルート)

@東海道新幹線で東京へ(乗り換え)
AJR総武線で東京〜成田へ(乗り換え)
BJR成田線で成田〜佐原へ

(伊能忠敬記念館)

JR佐原駅から徒歩10分
連絡先:佐原市佐原イ1722−1
   (TEL)0478-54-1118

       (資料提供)  伊能忠敬記念館

       (取  材)  堀井 好巳         2008年12月