〜「地球一周の船旅」 ピースボートに乗って〜
草津市在住 石川 敏郎
2006年10月末で早期退職をし、11月3日から2007年2月11日まで地球一周の船旅に参加しました。下船後3ヶ月経って記憶が大分薄れている中、101日間の旅を振り返って見ました。

◆ ピースボートとは?
地球一周の船旅と言うと殆どの人が「超豪華な客船による優雅な旅」と思われます。
確かに最近新聞でも「あすか」とか「日本丸」と言った船による世界一周の旅の広告を目にすることが多く、殆どの場合1千万円前後の料金となっています。これに対してピースボートは最高でも350万円、一番安い4人部屋では約140万円と101日間3食付を考えると一日1万円強とビジネスホテルより少し高い程度の価格設定となっています。(全部で17タイプの部屋/価格があります)
ピースボートと言う名前は船の名前ではなく、1983年に設立されたNGOの名前で世界の観光地を巡るだけでなく、各地での人と人の出会いを通じて国際平和の実現が出来ると言う考えの下、航海中に「水先案内人」と呼ばれる国際問題・環境問題・人権問題の専門家による講演会や交流を通じた学習をするもので、交流の為に外人講師(約20人)による3ヶ月間の英語・スペイン語の集中クラスも実施されています。
各寄港地でのオプショナルツアーでも、現地の若者との交流企画やサッカーの試合、孤児院・職業訓練所訪問といったコースが設定されており、発着時には現地の若者による民族舞踊の歓送迎会があることもあります。

<孤児院訪問>

<ベトナムでの歓迎>

<ケニアでの歓迎>
現在使用されている船はギリシャの船会社が保有するパナマ船籍の「トパーズ号」で全長195m、総トン数31,500トン、デッキ数9階の大型客船です。
船内には2つの食堂と3つのバー、映画館、大ホール、ダンス場や売店があり、最上階の甲板には大小2つのプールとジャグジーバスや球技コートがあります。
こう書くとやはり豪華な客船のように聞こえますが、船齢50年の老朽船で、3ヶ月目には7階の通路で雨漏りがしたこともあり、波が荒いときはギシギシときしむ音がするような状態でした。

<船室>

<船内通路>

<バー>
乗船客も全員で900名弱の内約4割は10代から20代の若者で、中には小学生や高校生もおり、アルバイトでお金を貯めてのったという学生もたくさん居りました。
又ピースボート(会社)も主要都市にあるセンターで広報・宣伝・申込者との連絡等の仕事を手伝った人に対し、時間あたり幾らの割引を提供しており、今回のツアーでも無料で乗船している猛者(若者とは限らない)が7人もいたとか。

<最年少乗客>

<82歳 10回目の乗船>
無料と言えば前述の外国語講師も無償で、その代わり乗船料は無料という条件とのことで、更に外国語講師や外国人水先案内人(講師)の通訳、寄港地でのツアー中の通訳といった仕事をする十数人のCC(コミュニケーションコーディネーター)も無料で乗船しています。
残りの乗客の内やはり40%はシニア層で、最高齢は95歳の男性。80歳台の方も数名おられ、中には82歳で今回が10回目の乗船と言う女性も居られました。
(うわさでは3ヶ月の長旅の為、万が一に備えて船底には棺おけが3個用意されているとのことで、今回はそのようなケースはありませんでしたが、2ヶ月目に日本のご主人が亡くなって急遽帰国された例はありました。)
◆コース紹介
今回私が乗船したのは第55回の地球一周クルーズで、西回りにインド洋を横断し、アフリカからスエズ運河を北上して地中海に入りジブラルタルを南下、南米からパナマ運河を通ってアメリカ西海岸からハワイを経て横浜・神戸に帰国するものです。
訪問地
横浜→神戸→@沖縄/那覇→Aベトナム/ダナン→Bシンガポール→Cセイシェル→Dケニア→Eヨルダン→(スエズ運河)→Fエジプト→Gギリシャ→Hマルタ→Iリビア→Jイタリア/ローマ→Kスペイン/バルセロナ→Lジブラルタル→Mカナリア諸島→Nブラジル/べレン→Oベネズエラ→Pパナマ→(パナマ運河)→Qガテマラ→Rサンフランシスコ→Sハワイ/ホノルル→横浜→神戸

<ヨルダン>

<ケニア>

<エジプト>

<ガラパコス>
4月末現在既に第56回ツアーが終盤にさしかかっており、60回までの募集が始まっています。既に街角のポスターや新聞宣伝でご覧になった方もおられると思いますが60回ツアーではピースボートで初めて南極遊覧も設定されています。
◆相違点
一回のツアーで20ヵ国回れると言うのは非常に効率的に思えます。確かに申し込めば後は全部手配してくれ、各寄港地でのオプショナルツアーも豊富でのっているだけで移動もお任せなので、手間をかけずに沢山の旅行を経験できますが、夫々の寄港地での滞在は長くて2日間、通常は朝接岸してその日の夜には出航と言うことが多く、結構慌ただしい観光旅行というのが実感です。本当に行ってみたいところがあれば、○○5泊6日のツアーといった飛行機旅行のほうが充実したものになるでしょう。
ピースボートツアーは「世界一周」でなく 「地球一周の船旅」というサブタイトルが付いています。これはニューヨーク・パリ・ロンドン等のメジャーなところを網羅する観光旅行ではない、むしろ貧困をはじめとするいろいろな問題を抱えているところを訪れ、自分の目で見たり事前に専門家である水先案内人の講演を聞いて予備知識を得ると言うところに目的があるようです。もちろん乗客の大半は旅行目当てではありますが、意図していなくても結果として「学習」でき、帰国後TVや新聞のニュースを見聞きした際の見方も変わってくると思います。

<水先案内人>
又いろいろな人と話して見て感じたのは、退職とか伴侶との死別、離婚といった人生の節目・区切りとして参加している方が多く、普通のツアーのように単なる遊びで参加はされていないようでした。安いとは言え最低でも140万円という金額は決して思いつきで遣える額ではありません。3ヶ月間家を離れると言うこともお金以上に困難が伴うはずです。乗客の8割は単独で参加しているという事実を乗船後知って非常に意外に感じたのですが、これは夫々の方が抱えている背景の複雑さを物語っているものと思います。(私の場合も単身でしたが、これは家内が極端に乗り物酔いに弱いためであり、決して深い事情がある訳ではありません。為念!)
引きこもり暦14年の31歳の男性、看護士、先生を辞めた人、逆に教職を目指して浪人中の人、高校中退して働いてその後又別の高校に入りなおした後休学して参加した人、もっとも単純なケースでも「地球一周」すること自体に何か特別な意義はあることは確かで、人に話をしても○○に行ってきたというのとは全く違った反応が必ずあることからも判ります。実際に沖縄の方で那覇から乗ることが出来るにも拘らずわざわざ神戸まで前泊して来て乗船し、神戸まで戻って「地球一周」を果たした人もおられました。
◆ 自主企画
長い船旅はきっと退屈すると思われる方が多いと思います。私自身も海水浴に行けばすぐ砂浜を掘り出すタイプで、絶えず何かをしていないと不安になる人間でして、実は乗船前に一番心配していたのが「退屈」でした。船には図書コーナーもありますが、自分が読みたい本をかなり持ち込みました。しかし結果的には殆ど手付かずで持ち帰るほど本など読む暇がない生活でした。その理由はピースボートには普通の船旅にはない次に挙げるような多くのイベントがあるからです。

<図書コーナー>
@ 船会社が提供する専属バンドによる演奏会や月に一度の船長主催のフォーマルパーティ
A ピースボート地球大学
  (ジャーナリストや専門家が講師となり体験しながら「平和」を学ぶもの)
  B 水先案内人による講演会・交流会
  (過去には筑紫哲也・小林カツ代・灰谷健次郎等の著名人やブラジル人ミュージシャン・落語家・環境活動家・新聞記者と言ったさまざまな分野の人が寄港地と寄港地の間に乗船し夫々数回の講演を行っている。)

C GET(Global English Training)ネイティブによる英語・スペイン語の短期集中コース
@ についてはどんな船旅には必ずあるものですが、ピースボートのフォーマルパーティでは必ずしもタキシード・礼服は必要でなく、旅先で買った民族衣装といった普段は着ることのないちょっと変わった格好で参加することになっています。皆が競って派手な民族衣装や奇抜なスタイルの服装をする為、寄港地でつい買ってしまったけれどとても「陸」では着れない服を「ピースボートディナー服」と呼ぶ様になりました。
A ・B・Cはもちろんピースボート独特のイベントですが、もっと多彩なのが数百の乗客の中の希望者が運営する「自主企画」で、ヨガ・気功・社交ダンス・コーラス・利殖セミナー・ジャズダンス・オカリナ教室・フラダンス・般若心経朗詠・鳥の声を聞く会・星を見る会・腰痛体操・太極拳・太鼓塾・スペイン語で歌おう会・落語ビデオを見る会等々数十の企画プログラムが定期的に運営され、毎日朝6:00に発行される船内新聞「ニライカナイ」には6:00から24:00までの9箇所の時間割が書かれており、だれでもどのイベントでも参加できます。
このような定期(ほぼ毎日)企画以外にもクリスマスやお正月、又変わったところでは時差発生の都度開かれる不定期な企画もあり、夫々が興味を惹かれるものなので、最初のころは殆ど「はしご」状態で文字通り船内を走り回っていました。私の場合は最終的には1時間の社交ダンスとその補習、その後30分腰痛体操に出て昼食、休憩後30分ボクササイズと昼過ぎまでビッチリと詰まった状態で、その間にシャワーを浴びて着替えたり、キャビンTVで上映される映画(毎日2本日替わりでエンドレス上映)を見たりすることもありました。

<英語・スペイン語教室>
2時から夕食までは水先案内人による各種セミナーや寄港地前には「上陸説明会」があり、昼寝などする暇は殆どなく夕食後も又日替わりの企画が深夜まであり、キャビンTVとは別に船内シアターでも日替わりで映画上映があったりで、睡眠不足になる日も多い状態でした。お蔭で帰国時には乗船時より5kgほど減量していました。

<運動会>

<ダンス>

<餅つき>
◆食事
行事や企画以上に乗客が強い関心を持つのが食事です。
食事は3食付で、食堂は2箇所あります。メインダイニングは4階にある「トパーズ」で、こちらは夕食のみ2部制で5:45からと7:30からに分かれて毎回フルコースで2種類の主菜から選択できてサーブしてくれます。
朝食は和洋食のビュッフェで味噌汁やおかゆもあります。昼食は日替わりメニューですが選択は出来ません。

<朝食>

<デッキ食堂>

<夕食会>
食堂は9階最上階デッキにもあり、こちらは基本的に丼ものやピザで食事時間帯ならいつでも誰でも好きなだけ食べられます。若者は堅苦しくない9階で食べることが多く、人によっては4階と9階の両方で食べることもあり、3ヶ月で9kg太ったと言う女性もいました。昼と夜のメニューは前夜には掲示板で見ることが出来、気に入らないメニューなら9階の丼を食べたりしていました。
クリスマスやお正月には船の中とは思えないかなり手の込んだ料理が供されます。
◆ 通信
家族や友人との通信手段はEメールと電話やFAXがあります。Eメールは船舶メールなので繋がりにくく遅いのと15分500円と割高で、株や投資情報を毎日見る人などは1日2000円までと言った枠を決めて利用されていました。
電話は衛星通信で、これまた繋がりにくく聞こえにくく、そして高いということで、定期的に連絡される人はもっぱらFAXを使われていたようです。因みに海外からでも使える携帯電話は寄港地でないと繋がらないため、緊急連絡用としては活用できませんでした。
郵便は寄港地から出しますが、1日だけの滞在では自分で切手を買って投函することは難しいので、船内の売店でピースボートのシール (葉書150円・封書300円)を買ってその横のポストに入れておけば、船会社が寄港地の郵便局に届けてくれます。絵葉書も次の寄港地のものを売店で売っており、多少割高ですが確実に出すことが出来ます。

◆最後に
以上、投稿を依頼されたときは20箇所の寄港地での紀行文のようなものと言うことでしたが、基本的には日帰りの駆け足の観光で今まで投稿されている皆様のような充実した内容の旅ではなかったことと、地球一周の旅の醍醐味はむしろ船内生活の楽しみ方にあると言う思いから、このような内容にさせて頂きました。
3ヶ月間文字通り寝食を共にし、「板子一枚下は地獄」の状態を共有し座っている椅子から転げ落ちるような揺れの中船酔いに苦しんだ仲間、言葉も通じない中、自由行動で地図を片手に迷いながら乗り遅れてはならじと帰船リミット時間直前に駆け戻った人たちとは、通常のツアーで一緒した人とは違う「一体感」ができ、帰国後も手紙やメールはもとより、家を訪ねたり名物を送ったり一緒に国内旅行をしたりと、夫々が何らかの形で繋がりを持っているようで、この辺りもピースボートの成果と思っています。


<横浜でお別れ>
因みに乗船後に知り合ったシニアの二人が帰国後に結婚するという話もあり、正に新しい出会いの場と言えると思います。
出張も含め松愛会メンバーの皆様は海外経験豊かな方も多いと思いますが、この文章を読んで少しでも興味をもたれた方は一度パンフレットを取り寄せてみられることをお勧めします。早い時点で申し込むほど早期割引もありますし、情報収集も兼ねてピースボートセンターで割引ポイントになるお手伝いをするのも一考です。