日本でここだけの扇型をした不思議な松の群生
〜 う つ く し 松 〜
滋賀県湖南市(旧甲西町)の南西に標高631.1mの阿星山がそびえ、その眼下の標高226.6mの美松山の南東斜面に、不思議な松が自生しています。
アカマツの変種で、一本の根から地表近くで放射線状に枝が分かれた、笠や扇のような珍しい樹形をしており、地元の人はいつからか「うつくし松」と呼ぶようになりました。自生地全体は特異な形態をなしており、その美しい景観は他に見ることができないと思われる。
このような松は日本でもここだけで、美松山の南東斜面一帯の約1.9haに、樹形は傘型をし大小約220本が群生している。

自生地は東海道に近く、古来より松の名所として知られており、街道を往来する人々にも注目されていた。
寛政9年(1797)の『伊勢参宮名所絵図』・文政9年(1826)の『東海道名所絵図』に紹介されていて江戸時代から有名であった。
大正10年(1921)3月3日に天然記念物として国の指定を受け、現在、約200本以上のうつくし松があり、樹齢300年以上、高さ約12.7mになるものもあります。
独特の樹形の理由は、自生地の土質(砂が交じった赤粘土)のため、ともいわれていますが、定かではありません。
樹形は、扇型(上方山形)、扇型(上方やや円形)、傘型(多形型)、ホウキ型の四型式に分類されている。


山の斜面一帯に広がる

歌川広重画「隷書東海道」に描かれたうつくし松
この松には不思議な伝説が残されています。
 平安時代、病弱だった公家の藤原頼平が静養のため、この地を訪れていたときのこと。突然、童女が木々の間を舞い出て、京都の松尾神社の使いとして頼平を護るために供をしてきた、と告げました。ふと見ると、周囲の松がすべて、うつくしい松に姿変えていたといいます。このことがあってから、頼平の平と松尾神社の松の字をとり、JR甲西駅から南に伸びた地域に平松という村の名がつけられたということです。
所 在 地 :甲西町平松541
アクセス :JR甲西駅から車で約5分
取材:2005年3月 多田 肇