（1）発祥から今日まで

　近江の国（現、滋賀県）の出身で、他国で活躍した商人を近江商人と呼んでいる。
全国で地名をつけた呼び方は出身地の風土の特徴をよく反映している。
江戸、京都、大阪、伊勢商人などがよく知られるところである。近世において、近江商人は北海道から九州に至る広い地域に亘って最も活動的であった商人集団である。近江商人が歴史に登場するのは、売買や貨幣の普及が盛んになる鎌倉時代にさかのぼるとされている。
湖東地方の本座商人や五箇商人などが存在し、時の権利関係に伴う争いをしていた記録が残っている。
　早くから城下町が形成された近江では城主の保護などにより近江商人の発祥の要因が生まれて来た。また、商業活動発展の条件が整っていた。石高（米の生産）も全国で第二に多かったほか所領関係も複雑、変化が多く、領主は自給自足政策より他国へ出かける便宜を与えたりした。織田信長の時代には日本の首都圏の一部でもあった。
　江戸時代には全国を商圏に取り込み、明治以降は海外にまで活躍の場を拡大した。
また、出かけた土地で定着し、商業に製造、海運、保険、金融など現在にいたるまで近江系企業は活躍している。そして時代の変化に対応した新しい分野での事業展開を行い、多岐にわたって日本経済の中心として脈々と引き継がれていると言える。

（2）理念、経営手法

　商家には創業者や成功者などが家訓、店則、遺言状その他文章、書状等を多く残している。
　そのひとつ、「三方よし」は、売り手よし、買い手よし、世間よし の考えである。世間よしは、今で言う社会的責任・社会貢献を意味している。
その他にほぼ共通して、勤勉・倹約・正直・自立・敬神・崇仏・始末などの理念があり、その背景には近江には、仏教、儒教、神道の熱心な信仰心があった。
営利と道徳の一致を強調するところなどには近代性を見出せる。また、現代の各企業における社是、社訓、遵法精神、綱領、行動基準など企業倫理につながっていると言うことが出来る。
出店、枝店経営による独立事業性、リスク管理、評価制度などの経営体制やそれを支える複式簿記構造をもつ帳合法などの会計制度、また年俸給、賞詞金、在所（本店）登り、別家などの人事制度があった。教育にも熱心であった。
当時の様々な経営手法や理念は経営遺産としてその研究が今も続けられている。
　本年（17年度）から地元の商業高校と大学が、交流・連携し「近江商人を育成する教育機関として協力したい」と発表した。

（３）代表する　三商人

◆八幡商人（はちまんしょうにん）
　　
　○活躍時期　　江戸初期
　　
　○主な取扱　　蚊帳・畳表・麻布（まふ）・数珠・灯心・蝋燭・扇子
　　　　　　　　 　 湖上、海上運送
　　　　　　　　　　　
　○商　　　圏　 三都（江戸・大坂・京都）、北海道、東北、関東、中部、中国、九州

　○特　　　色 　●最も早く（元和年間（1615-24）、江戸に出店。

　　　　　　　　　 ●「八幡の大店」大型経営

　　　　　　　　　 ●北海道交易（柳川・薩摩の商人と両浜組を組織）。

　　　　　　　　　 ●鎖国前はベトナムやシャムなど海外へも進出。

　　　　　　　　　 ●早くに豊臣秀次は城下町を開き商都として繁栄させた。

　○施設案内　　・歴史民俗資料館

　　　　　　　　　　・旧西川家住宅、旧西村家住宅

　　　　　　　　　　・市立資料館（旧伴家住宅）

歴史民俗資料館・京街道・新町通り

市立資料館（旧伴家住宅）

◆日野商人（ひのしょうにん）

　○活躍時期　　江戸中期
　　
　○主な取扱　　日野椀・漆器・合薬（あわせくすり）・煙管・日野布（ひのきれ）・茶
　　　　　　　　　　酒の醸造と販売
　　　　　　　　　　　
　○商　　 圏　 関東地方に出店が集中

　○特　　 色  ●持下り商品の日野椀の行商からはじまる。

　　　　　　　　 ●「日野の千両店（せんりょうだな）」と呼ばれる小規模な出店が多い。

　　　　　　　　 ●三都などの大都市は避けて地方に開設した。

　　　　　　　　 ●商人仲間の相互扶助などのため、組合「大当番仲間 （おおとうばん
　　　　　　　　　　　　 なかま）」を形成し、後に近江八幡、五個荘商人も参加した。

　　　　　　　　 ●関東地方を中心に、酒や醤油など醸造業も盛んに経営。

　　　　　　　　 ●蒲生氏郷は楽市楽座の掟を下して商業を保護した。
　　　　　　　　　 また、氏郷の会津への移封（天正12年・1584）をきっかけに
　　　　　　　　　 領民は関東、東北をはじめ全国に活躍した。

　○施設案内　  ・近江日野商人館（旧山中兵衛門邸）

　　　　　　　　　　・日野商人町並み（岡本町、清水町）

日野椀

◆五個荘商人（ごかしょうしょうにん）

　○活躍時期　　江戸後期
　　
　○主な取扱　　呉服・太物（綿織物）・編笠・麻布（高宮布・野洲晒）・ 縮緬・小間物
　　　　　　　　　　金融
　　　　　　　　　　　
　○商　　 圏　 三都（江戸・大坂・京都）、関東、信濃、奥羽、畿内、九州

　○特　　 色  ●あくまで村方（在方）として存在し、農間余業として商業を行った。

　　　　　　　　 ●江戸時代の開設は13店であり、明治以降に活躍。

　　　　　　　　 ●明治以降に活躍した商人達は、海外の視察、進出など進取の
　　　　　　　　　 気性に富む。
　　　　　　　　
　○施設案内　  ・近江商人博物館（旧山中兵衛門邸）

　　　　　　　　　　・近江商人屋敷/ 旧外村宇兵衛家・旧外村繁家・
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 旧中江正次家（あきんど大正館）
　　　　　　
　　　　　　　　　　・歴史民俗資料館（旧藤井彦四郎家）

三商人の町の地図