61回 豪華絢爛「信長の館」と五個荘in近江の旅

平成25 (2013)530()

参加者50

                    


映画「家」(島崎藤村原作 今春公開)のロケをした老舗酒造「岡村本家」の見学と
直営の「遊亀亭」で郷土料理を賞味し、近江商人発祥の「五個荘」で

重要伝統的建造物群保存地区の町並および商人屋敷見学

そして安土城天主再現の豪華絢爛な「信長の館」観賞


今年最初の例会228日)では、まだ「山眠る」姿だったが、嫩芽(どんが)・桜花の「山笑う」時季が過ぎ、今は新緑のブロッコリーが心を潤してくれる「山滴る」季節。

分け入っても分け入っても青い山 (種田山頭火)

五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする (萩原朔太郎)

 山頭火や朔太郎が愛で、松尾芭蕉が「行く春や鳥啼(なき)魚の目は泪」と奥州へ旅立った5月。 さあ湖東へ心地良い旅をしよう! 

出発前に、運転手さんが挨拶をしてくれた。通常添乗員さんがドライバーを紹介するが、自ら挨拶してくれたのは初めて。ゴールデンウイークに追突事故が多発したが、この運転手さんなら大丈夫と安心した。

いつものように、代表から多数参加してくれたことへの感謝と、今回から添乗員さんと連携をとり、会員に伝達をする世話役を紹介し円滑な旅への協力をお願いする。 また、観光後の出発時刻を徹底するため、自作した大きな時刻カードを示し、降車時に見てくれるよう説明するなど、安全と親睦を目指す熱い挨拶。さらに、連携役になった世話役がユーモアを交えての挨拶に、車内は拍手と爆笑の連続。

続いて添乗員さんから本日のスケジュールと諸注意のあと、恒例の、前回の思い出を楽しむ「作品集」、および今回の旅の醍醐味を記した「徒然話」を世話役が紹介。 朝方の雨が樹木を潤し、道路を清めてくれている。天気は曇天だが車内は晴れ渡った初夏そのもの…。


【あいとうマーガレットステーション】

八日市ICから一般道へ、休憩と買物に「あいとうマーガレットステーション」という道の駅に917分着。ここでは、旬のとれたて野菜や果物販売の「あいとう直売館」をはじめ、加工食品、レストランやお菓子販売など6棟の建物と四季の花を楽しませてくれる、お花畑がある。

先ずは、開店直後の「あいとう直売館」へ、新鮮な野菜や果物など愛東地区の特産品が選り取り見取りだ。旬のエンドウやソラマメをはじめとする野菜や特産のメロンも安い。

道の駅莢豌豆(さやえんどう)のあおあおと” (◆)


  
所せましと野菜や果物が並ぶ店内

40分買物や好きな館を散策し、次の目的地豊郷(とよさと)へ。豊郷は、豊郷小学学校の校舎改築問題で町長と住民が対立し、マスコミを賑わした所。

(豊郷小学校については、今回の旅とも関連する近江商人や、メンソレタームの「近江兄弟社」を創立した、アメリカ人建築家ヴォーリズも関わる興味深い話があるが、ここでは紙幅を超えるので、次回の例会で配布する作品集の「こぼれ話」に記す)

【酒蔵 岡村本家】

近江は江州米(ごうしゅうまい)で有名な米どころ。早苗の田圃ばかりと思っていたら、いたる所で麦秋の穂が揺れ収穫を待っていた。 秋に種をまき、冬に麦踏みし、初夏の今、収穫の秋を迎えている。 古里の我が家にも麦畑があった。幼き日、肩を並べて麦踏みしながら母の話を聞くのが嬉しかった。麦畑は物語を作ってくれる懐かしい場所だ。 窓外の風景に浸っていると、20分ほどで「酒蔵 岡村本家」に着いた。              

近江ゆく窓外一面麦畑 (◆)


地酒の老舗を思わす岡村本家前での女性陣 (◇)


添乗員さんや酒蔵を案内・説明してくれる方も一緒の男性陣 (◇)

創業安政元年(1854年) 全量木槽しぼり 地元米でつくる温もりの酒 とホームページにある「酒蔵 岡村本家」は、彦根藩主井伊大老より酒造りを命じられて、井伊家の領土であった豊郷の地に2年の歳月をかけ蔵を建築したという。

 金亀の暖簾をくぐって建物にはいると、江戸時代にタイムスリップしたような風景に出合う。こんな酒蔵は初めてだ。「蔵しっく館」とも呼ぶことを後で知った。2班に分かれて見学する。

   
         江戸時代の酒造りの絵            昔の酒造りの話を熱心に聞く (☆)
  
      重厚な木槽(きぶね)しぼりの話 (☆)         ホウロウタンク前で興味深い話 (◇)
   
           2階の風景                会長から展示品の由来を聞く (◇)

 太い梁をめぐらした木造の酒蔵は、それ自体が芸術品だ。昔の酒造から現代まで丁寧に、詳しくお話してくれた。

昔からの話として「米一升で酒一升できる」と言われている。今でも大吟醸などあるが、おおむねそう言えるとのこと。また琺瑯(ほうろう)タンクは一度で満杯にせずに、日を変え順々に入れて満タンにし寝かすと、酷(こく)のある濃醇な日本酒の味に仕上がるそうだ。

2階は酒器をはじめ酒や岡村本家に関すること、世話したであろう画家の絵などが夥(おびただ)しく展示されている。また、300人が入れる150畳の大広間があり、ジャズのライブや落語会をするそうで、この酒蔵は、酒造所・酒造博物館・演芸場の3つの顔をもっている。

日本酒の歴史学びて夏立ちぬ” (◆)

 見学のあと、自慢の銘柄を次々と試飲し、気に入った酒や関連商品のお土産を買い、歩いて岡村本家直営の昼食場所へ。  

酒蔵や試飲いただき五月雨(さつきあめ)” (◆)

【遊亀亭】

 見学した「酒蔵 岡村本家」は趣のある建物なので、ドラマや街道もの番組、CMなどのロケが行われてきたが、この春公開の映画『家』(島崎藤村原作)のロケも行われた。

 藤村は、“まだあげ初めし前髪の”で始まる「初恋」や、歌謡「椰子の実」「惜別の歌」、「歌曲「千曲川旅情の歌」などの詩人であるが、「家」や“木曽路はすべて山の中である”の書き出しで知られる大作「夜明け前」などの小説家でもある。木曽の旧家の雰囲気に「酒蔵 岡村本家」がぴったりだったのだろう。

    
遊亀亭へ向う路地と入口  

本日の食事処「遊亀亭」は、築120年を超えた古民家で、地元の郷土料理や酒粕などを使った酒蔵料理と古の風情で評判という。


本日の旅と健康を祝して乾杯! (◇)

 今回も、新入会員1名の紹介があり、拍手で歓迎。料理に箸をつける。ビールやここの銘酒が進む。さんざめく楽しいひと時が過ぎてゆく。

 料理は、ご当地名物、赤こんにゃく、麸の味噌和え、枝豆、焼き鮭、これが会席膳でいう先付だろう。鴨の燻製、爽やかさを味わうモズク、小松菜の白和え。自家製の酒粕による酒粕鍋は、こんにゃく、薄揚げ、大根、椎茸、人参など地場の物に鮭を加えた石狩鍋風。

 さらに、玉ねぎ・ゴボウの天麩羅、茄子の煮物、福神漬けに、ここの酒粕で漬けた琥珀色の奈良漬、そして江州米のご飯、美味しいので、あちこちでお代わり…、デザートはアメリカンチェリー。味よし、量よし…。 幸せ、幸せ、感謝、感謝…。

 食事の後片付けにきた女性に、「家」のロケはどこでしましたか?と尋ねると、「この座敷でもしましたし、他の部屋でもしました。私もエキストラで出ましたよ」とのこと。なかなかの美形と思っていたので、思わず「貴女なら主役の西村知美をしのぎましたね」と言ってしまった。

 帰宅後インターネットで調べてみると、映画「家」は511日から上映されている。ネットで予告編を観ると、昼食の座敷や酒蔵の“金亀”がバッチリ映っていた。あらすじを読むと、藤村の原作とは違って老舗の造り酒屋が舞台のようだ。木曽の旧家だと思っていたが、造り酒屋の旧家として「酒蔵 岡村本家」をロケに選んだわけだ。

【てんびんの里 五個荘】

 遊亀亭から20分ほどで近江商人発祥の地の一つ、五個荘に着いた。近江商人は大坂商人・伊勢商人と並ぶ、日本三大商人に挙げられている。五個荘は、八幡商人や日野商人より後発であったが、江戸末期から明治・大正・昭和にかけて飛躍的に成長し、国内はもとより朝鮮半島・中国大陸へ進出した。その際、商品を入れた荷物を天秤棒(てんびんぼう)で担いだことから、五個荘を“てんびんの里”と呼んでいる。

その商人魂を描いて映画「てんびんの詩」が作られた。好評につき、1作目を原点編とし、続編「てんびんの詩2自立編」が作られた。不屈の商人根性を学ぶべしとして、社員研修に企業が活用するようにもなった。(帰宅後の調べで、戦後の活動を描いた「てんびんの詩3激動編」まで作られていたこと知った)

 待ち受けてくれていたボランティアガイドさんの案内で、五個荘の中心地区、「金堂の町並み」と、「外村宇兵衛邸・外村繁邸・中江準五郎邸」の見学に3班に分かれて出発。


 外村宇兵衛邸 (☆)                外村繁邸 (☆) 
    鯉幟や雛壇の座敷でお話を聞く       作家・繁の暮らしのお話を興味深く聞く

          中江準五郎邸 (☆)                保存交流館でコーヒーブレーク (☆)

    特徴の舟板塀の準五郎邸前で、お話を聞く        お互いに感動を話し合う

◆外村宇兵衛は呉服類の販売を中心に商圏を広げ、全国長者番付に名を連ねるなど近江を代表する豪商。建物・庭は往時の半分ほどが取り壊されたが、茶屋・四阿(あずまや)の復元、主屋、庭の改修整備を行い、明治期の姿を修復している。

◆外村繁は昭和10年、「草筏(くさいかだ)」が第1回芥川賞候補になる。昭和13年池谷賞、昭和31年「筏」が野間文学賞を受賞した作家。外村繁邸は繁の生家で江戸末期に建てられたもので、総面積約720坪、建物面積約150坪を有する。

◆中江準五郎は昭和初期、朝鮮半島や中国で三中井(みなかい)百貨店を築いた中江家4兄弟の末弟。昭和8年に建築された邸宅は、近代近江商人の本宅の典型として公開している。

   
     商人屋敷の庭  

  豪商の名残の庭に緑さす” (◆)

金堂の町並みは、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。選定理由は、「古代条里制地割を基礎に大和郡山藩の陣屋と社寺を中心に形成された農村集落で、加えて近江商人が築いた意匠の優れた和風建築群の歴史的景観を保持するため云々」とパンフレットにある。

ちょっと待って、何故大和郡山藩?の疑念がわく。調べてみると、このあたりは大和郡山藩の飛び地所領だったそうだ。このようなことは江戸時時代によくあったことらしい。

天秤棒を担いで商いをした商人は、財を積んでも郷里を離れることはなく、金堂の本宅を守り、進んで社寺や公共のために出資したという。白壁、舟板張りの屋敷群は日本の古き良き時代を彷彿(ほうふつ)させてくれる。

【安土城天主 「信長の館

旅も終盤になり、本日メインの「信長の館」へ向う。信長は戦国時代、下克上の英雄として周知の人物だが、彼の人生は奥深いものがあった。その生涯を国民的歌手、三波春夫が歌っている「長編歌謡浪曲 織田信長」を車内に流す。三波春夫が熱唱する歌詞に、車中の皆さん、それぞれ来し方を思い出し聴き入る。

ほどなく、公益財団法人「安土町文芸の郷」に着いた。 その一角に、蘇った幻の名城「安土城天主 信長の館」がある。

この館は、平成4年、「スペイン・セビリア万博」日本館のメイン展示としたものを、万博終了後、安土町が譲り受け解体移築し、新たに5階に発掘された当時の瓦を焼き上げて再現した庇屋根、天人の飛ぶさまを描いた天井、6階には金箔10万枚を使用した外壁、金箔の鯱(しゃちほこ)を乗せた大屋根が取り付けられ、内部には、信長が描かせたと伝えられる狩野永徳の金碧障壁画も再現されている。

 
 説明ビデオで概略を把握 (☆)                まばゆい天主の内部 (◇)
   
        華麗な装飾                天主最上階を間近で観る (☆)        

きらびやかな館の前で全員の記念写真 (◇)

絢爛の天主に酔いて五月尽(ごがつじん) (◆)

【竜王かがみの里】

 信長の館から20分ほどの、道の駅「竜王かがみの里」に着く。このあたりは、中山道の宿場町として栄えた鏡宿(かがみのしゅく)、また、源義経が鞍馬山から奥州下向の途中に元服したという伝説が伝わり、現在も義経ゆかりの名所旧跡が数多く残っているそうだ。

 今日のラストショッピング。特産品を物色、手作りジャム、湖魚の佃煮、近江牛の味噌漬けなど、やはり安い。台所をあずかる女性陣は旺盛な買物。そのエネルギーに圧倒される。

 帰途、例会の改善点を提案し、次回例会(926日、越前方面)の案内と自宅まで安全に! そして添乗員さん、ドライバーさんに感謝の言葉と拍手。

 萩原朔太郎は、「五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする」と言ったが、私達も案内やお世話になった方々の優しさ、食事に、貴族のような一日を過ごした。いい旅でした。


<俳句>桐山俊子(◆

<写真>竹内一朗(◇印)  見城好豊(☆)  永野晴朗(無印)

<文>永野晴朗